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睡眠・休息・メンタルケア

悪くなる前に気づいて予防 うつ病

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監修/茅野分先生(銀座泰明クリニック院長)

ストレスの多い現代社会で、うつ病に悩む人が増えています。「心の風邪」とも呼ばれるうつ病ですが、悪くなると治療に時間がかかる、再発(薬を一度やめられた後に再度発症すること)・再燃(薬を飲んでいても悪くなってしまうこと)してしまうといったことも少なくないため、日頃から心身の状態をメンテナンスして、できる限り予防することが大切です。気分が落ち込んだときや意欲がわかなくなったときに自分でできる対処法について、銀座泰明クリニック院長の茅野分先生に伺いました。

心身の不調が続くようなら受診を

憂うつな気分になることは誰にでもあるものです。また、気分が多少落ち込んだとしても、数日で回復することが多いでしょう。誰もが経験するような「憂うつな気分」と「うつ病」を区別するポイントは、「落ち込んだ状態がどの程度か、またはどのくらい長く続くか」です。

うつ病とは、気分の落ち込みや意欲の低下などの精神症状と、いわゆる「自律神経失調症」(頭痛、肩こり、だるさなど)や、不眠、食欲不振などの身体症状が現れる病気です。原因はまだはっきりと分かっていませんが、過度の精神的・身体的ストレスや、脳内の神経伝達物質の不足などが重なって発症するのではないかと考えられています。心身の不調が2週間以上続いている場合や、仕事や生活に支障が出ている場合は、心療内科や精神科の受診を検討していただきたいと思います。

軽症うつ病であれば、十分な休養を取ることで回復することもありますが、症状が重くなってしまうと、仕事や生活に大きな影響をきたし、ますますストレスが増えて気分が落ち込むという悪循環が続いてしまいます。できるだけ軽症のうちに対処したいものです。

こんな症状には要注意

心身のつらい症状が続いているときは、以下の項目を確認してみてください。2つ以上の状態が継続しているようであれば、受診をおすすめします。

  • 憂うつな気分が続いている
  • 物事に興味を持てなくなった
  • 集中力が落ちた
  • 自分に自信が持てなくなった
  • 自分は価値がない存在だと感じる
  • 疲れやすくなった
  • 眠れない/いつもより早く目覚めてしまう
  • 食欲がない
  • 体重が減った
  • 性欲がなくなった

うつ病と診断された場合は、十分な休養を取ることが必要です。治療には、抗うつ薬や睡眠薬などの薬を使って、脳の機能回復をはかります。さらに、心理士との対話を通して物事の捉え方(認知)や行動を変えることで気持ちを楽にしていく認知行動療法など、薬を使わない精神療法をあわせて行うこともあります。さらに、仕事の量を減らす、業務内容を変える、家庭での役割分担を調整するなどの環境調整も同時に行い、ストレスの軽減をはかります。

セルフケアの方法を知ってうつ病を予防

気分が落ち込んだときに自分をメンテナンスする方法を知っておくと、うつ病予防に役立ちます。自分でできる2つの方法をご紹介しましょう。

①「いま」に集中する方法:マインドフルネス(森田療法)

マインドフルネスは、「いまこの瞬間」の体験に意識を向け、評価を下すことなく、何にもとらわれずにただ観察することを指します。仏教の瞑想がルーツとなっており、2000年代に入ってから、欧米のグローバル企業でも取り入れられるようになって流行しました。

ポイントは、判断しないこと、過去や未来ではなく「いま」に集中すること、何かを行うことではなく、ただ存在することに意識を向けることです。このような意識の持ち方によって、出来事をあるがままに受け入れられるようになります。

最近では、マインドフルネスや瞑想を行う際に使えるさまざまなスマートフォンアプリもありますので、こうしたものを活用するのも一つの方法です。すきま時間に取り組める方法を試してもよいでしょう。

また、日記療法も有効です。日記療法とは、「書く」という行為を通して、自分自身の感情、思考、体験などに目を向け、自己理解を深めて心身を安定させる方法です。

毎晩、日記を書いてみましょう。最初のうちは、その日の出来事や気持ちを短く書き出すだけでも構いません。ノートを持ち歩いて、思ったことをそのつど書き留めるのもよいでしょう。慣れてきたら、「5~10分以内に書く」など時間を決めて取り組むのも一つの方法です。また、日記に限らず、過去の自分や、過去の状況、経過、他者などに対して手紙を書いてみるのもおすすめです(投函する必要はありません)。

日記療法は、静かで落ち着いた、慣れた環境で行うといいでしょう。書く前と後で、感情や考えがどう変化したか確認しましょう。

②過去を見つめ直す:内観療法

内観療法とは、過去を振り返り、母親、父親、兄弟姉妹など、これまでに深く関わってきた人々に「お世話になったこと」「お返ししたこと」「ご迷惑をかけたこと」を徹底的に調べるものです。自らを主観的および客観的に深く洞察することによって、新たな自己を発見できたり、感謝の気持ちが生まれたりします。

内観療法の基本は、研修所に1週間宿泊して行う「集中内観」ですが、セルフケアとして日常生活の中で行うことも可能です。「お世話になったこと」「お返ししたこと」「ご迷惑をかけたこと」を調べて書き出してみましょう。

規則正しい生活がすべての土台

セルフメンテナンスの基盤となるのは、規則正しい生活です。最近は在宅勤務などで生活のリズムが乱れ、心身の不調が生じている人もいるかもしれません。日頃から以下のようなことを心がけましょう。

・早寝早起き、朝型の生活習慣を心がけること
体内時計が狂うと、心身の症状が出やすくなります。朝日を浴びて、日照時間にあわせて活動するようにしましょう。

・喫煙と飲酒を控えること
特に心身の不調がある場合は、喫煙と飲酒を控えましょう。ニコチンやアルコールには覚醒・興奮作用があり、睡眠が浅くなってしまいます。

・夜間にパソコンやスマホを使用しないこと
画面から出るブルーライトが刺激となり、睡眠を妨げます。夜は音楽や香りなどを楽しんで癒やされる時間にしてはいかがでしょうか。

・コミュニケーションを取る
ひきこもらずに人と交流することも大切です。対面が難しい場合は、メールやビデオ通話などでコミュニケーションを取るようにしましょう。

さまざまなストレスから逃れることができない現代社会。日常生活の中に自分自身をメンテナンスする方法を取り入れて、心身の健康を保ちましょう。

監修者プロフィール
茅野分先生(銀座泰明クリニック院長)

【茅野分(ちの ぶん)先生プロフィール】

銀座泰明クリニック院長
1997年群馬大学医学部卒業後、同大学付属病院、前橋赤十字病院、佐久総合病院にて精神医療・身体医療、救急医療・地域医療等に従事。慶應義塾大学病院精神神経科を経て、2006年銀座泰明クリニックを開院。産業医、精神保健指定医、精神科専門医、医学博士。著書に『本当に怖いキラーストレス 頑張らない、あきらめる、空気を読まない』(PHP研究所)がある。

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