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未来のヘルスケア ショートショート

声優・竹達彩奈が朗読するショートショート サーモレンズ 田丸雅智

竹達彩奈

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サーモレンズ 田丸雅智

駅前の銅像の前に立ち、
藍子は時間を確認した。
少し早く来ちゃったな……。
きょろきょろと、
悟の姿を探してみる。
が、やはり悟はまだいない。
周囲は同じように待ち合わせを
している人たちであふれていた。
藍子は身についた動作で、
無意識のうちに
その人たちの頭上に目をやる。

01/11

そのガチガチにこわばった
表情がおかしくて、
愛おしくて、
藍子は思わず微笑んだ。
「ありがと……こちらこそ、
これからも末永く、よろしくねっ」
悟の表情がみるみるうちに、
やわらいでいく。
それを見ながら、藍子は遅れて、
自分の心臓がかつてないほどバクバクと
高鳴っていることに気がついた。
なにも悟だけの話じゃない、
と藍子は思う。
今の私の体温だって、
きっと黄色信号だ。

11/11

なになに?
どういうこと?
えっ? えっ? えっ?
半ばパニックに陥りながらも、
もしかして、
と藍子はあることを思いだす。
体調不良のとき以外に、
もうひとつ、悟の体温に黄色信号が
ともっていた場面があったなと。
それは、極度の緊張に
襲われているときだ。
藍子は、すべてがつながった。
そんな藍子に、悟は言う。
「ダメ……かな?」

10/11

次に口を開いたのは、悟だった。
「……やっぱりバレたかぁ」
「バレた? なんのこと?」
藍子は意味が分からず、
首をかしげた。
「本当はこんなところで言うつもり
じゃなかったんだけどさ……」
悟は藍子を急にまっすぐ見つめると、
一息に言った。
「藍子……
おれと結婚してほしいんだ」
「えっ?」
まったく予期していなかった言葉に、
藍子は変な声をあげてしまう。

09/11

「調子、よくないんでしょ?
無理しないで、今日は帰ったほうが
いいんじゃない?」
しかし、悟はすぐに否定した。
「大丈夫だって……
まあ、とりあえず行こうよ。
今日はどうしても
行きたいところがあってさ」
「……ねぇ、
悟は病気かもしれないんだよ?
やっぱり今日はやめておこうよ」
「いや、でも……」
しばらく押し問答がつづいた末に、
二人のあいだに気まずい
沈黙が流れはじめる。

08/11

そのことは、
オンライン飲み会がきっかけで
付き合いはじめてからの
数年で、藍子が一番よく
理解しているつもりだった。
が、同じようにこれまで
過ごしてきた年月で、
悟の体温に黄色信号が
ともったのは数えるほどしか
なかったことも知っていた。
そしてそれは、
体調が悪いときだった。
藍子は心配になって、
ふたたび言った。

07/11

「悟、大丈夫?
体温、黄色になってるけど……」
藍子の目には、悟の体温が映っていた。
表示されている数字は37.1℃
その色は注意を示す黄色になっていた。
「ねぇ、体調でも悪いの……?」
「いや……たぶん、
走ってきたからじゃないかなぁ」
「でも、いま走ってなんか
なかったよね?」
「えっと、それは……」
悟は、予防の大切さをちゃんと
分かっている人だ。

06/11

そして、この相互チェック体制の
確立により、各施設にかかっていた
検温の負担はぐんと減った。
それと同時に、体温は
人々のあいだで身分証くらいの
重みを持つようにもなった。
そのとき、藍子の名前を
呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、
悟が歩いてくるところだった。
「ごめん、待った?」
悟は藍子のことを気遣った。
しかし、そんなことより、
藍子は別のことが気になった。

05/11

サーモレンズは登録された
それぞれの
体温データを
常時参照してくれていて、
青なら安全、黄色なら注意、
赤なら
危険と色で
教えてくれるようになっている。
このデバイスの発売当初は、
個人情報をさらすことに
抵抗感を覚える人も散見された。
が、それよりも病を予防しよう
という声が多数を占めて、
いまではコンタクトレンズ型か
メガネ型、いずれかの
サーモレンズを身に付けて
外出するのが当たり前になっている。

04/11

サーモレンズは、
人の体温を数字で
見ることが
できるデバイスだ。
体温がただ表示されるだけではない。
その人にとって、どれくらい
平熱からの差があるのか
を色で示してくれるのだ。
たとえば、同じ37℃
体温であったとしても、
ある人にとっては高熱に
当たるかもしれないし、
ある人にとっては
平熱の範囲内かもしれない。

03/11

人々の頭の上には、
こんな数字が浮かんでいた。
──36.5℃
──35.8℃
──36.9℃
数字には色がついていて、
そのほとんどはブルーだった。
中には黄色の人もいたけれど、
赤の人は見当たらない。
大丈夫、危ない人はいなさそう。
そう思いながら、
藍子はサーモレンズを
装着した
目でまばたきをする──。

02/11
内田雄馬

竹達彩奈

埼玉県出身の6月23日生まれ。2007年に『Kiss×sis』の住之江あこ役でデビューし、その後『けいおん!』中野梓役で話題となる。さらに『だがしかし』枝垂ほたる役、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』高坂桐乃役、『迷い猫オーバーラン!』霧谷希役、『たまゆら』沢渡楓役、『五等分の花嫁』中野二乃役など、人気作品の主役キャラクターを多く演じる。2012年には歌手デビューも果たし、多方面で活躍している。 公式サイト http://ayanataketatsu.jp/

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