IMAGINATION
STORY
未来のヘルスケア ショートショート

鼻エク 田丸雅智

悠木碧

  • ツイッター
  • フェイスブック
  • ライン
ショートショート「鼻エク」

鼻エク 田丸雅智

「ねぇ、お願いっ!」
真帆は、母親の千秋に
向かって手を合わせた。
「健康にいいんだって!
クラスのみんなもやってるしさ!」
千秋は渋い顔をする。
「うーん、それは分かってるんだけど、
値段がねぇ……」
「いいじゃん、それくらい!
おばあちゃんだって、
壊したメディカを買い直したじゃん!
祐二おじちゃんは変な魚に夢中になって、

01/11

次の瞬間──。
ハックションッ、
という盛大なくしゃみが部屋に響き、
真帆はベッドから飛び起きた。
鼻エクには、アロマよりも確実に
目を覚まさせてくれる機能があり、
それが真帆を起こしたのだ。
鼻をくすぐりくしゃみを促すという、
容赦のないスヌーズ機能で。

11/11

そして、次の朝、
真帆は鼻エクのさらなる効果を体感する。
目覚まし機能だ。
夜の間にセットしておいた
時間になると、真帆の鼻に、
レモンの香りがたちこめた。
それは目覚めには効果的な香りだった。
しかし、真帆の眠りはとても深く、
その香りだけでは
寝返りをうつので精一杯だった。
真帆の鼻がひくひくしだしたのは、
そのときだ。

10/11

家に帰ってからも、
真帆は鼻エクを存分に堪能した。
鼻エクにはアロマ機能もあって、
アプリで指定すれば
ユーカリやミントなど、
好きな香りを楽しむことができるのだ。
いろんな香りを楽しんだあと、
真帆は寝るときにラベンダーの香りを
指定して眠りについた。
快適な睡眠は、美容につながる。
そのことも、鼻エクが女性に人気である
理由のひとつだった。

09/11

それを伸ばすなんて、
聞くだけで変な感覚を覚えるらしい。
でも、と、真帆は思う。
ゴミを吸いこまないための鼻毛なのに、
それを切るだなんて、そっちのほうが
おかしいんじゃないかなぁ……と。
施術を終えてクリニックの外に出ると、
真帆は大きく深呼吸した。
吸いこむ空気は、まったく前とは違っていた。
まるで森の中を歩いているように、
すごくおいしく感じられた。
鼻エクすごい、と、真帆は心底、感動した。

08/11

一通りの説明を聞き終えると、
真帆は担当の人に
鼻エクの施術をしてもらった。
一本一本、丁寧に取りつけていくので
時間はかかるとのことだったが、
うとうとしている間にすぐに終わった。
施術が終わって鏡で鼻を確認し、
真帆は満足げに笑みを浮かべた。
鼻の中には鼻毛がびっしり伸びていた。
母親の千秋に言わせると、
ひと昔前だと鼻毛は
切ったり抜いたりするものだったから、

07/11

たとえば、食べ物の腐った匂いや
有害なガスなどを、
自分の鼻で察知できなくなる
ということだ。
それを防ぐために、
鼻エクには匂いを判別する
機能も備わっている。
悪い匂いを検知すると、
アラートが鳴って知らせてくれる
というわけだ。
「すごい技術なんですね……」
真帆はすっかり感心した。

06/11

真帆は担当の人に尋ねてみた。
「あの、充電はどうしたらいいんですか?」
「鼻で呼吸をするときの風で、
中の分子風車が発電するので、
特に必要はありません」
「えっと、お手入れは……」
「毎日、水で洗うだけで大丈夫です」
担当の人は、こんな話もしてくれた。
鼻エクをすると、
周囲の匂いが気にならなくなるのだ、と。
しかし、そのことには危険性も
潜んでいるのだと教わった。

05/11

何より、ウィルスや細菌も鼻エクが
フィルタリングしてくれるので、
空気感染の予防にもなりますよ。
もちろん、口などから
感染してしまう可能性はありますが、
空気感染のリスクは
マスクをするよりも劇的に下がります。
それから、鼻エクには
身体の水分を利用した
加湿機能もありますから、
鼻や喉の粘膜の乾燥を防いで
病気の予防にもなってくれます」

04/11

施術室に通されると、真帆は
これから自分の地毛にとりつけて
もらうものを見せてもらった。
見た目は、まさに毛のようだった。
が、それはただの作り物の毛ではない。
その細い中に分子レベルのマシンが
搭載された、最先端の空気清浄機なのだ。
真帆は改めて、
担当の人から説明を受ける。
「地毛を延長する形でこれを設置して
おけば、鼻で息を吸うだけで新鮮な
空気を身体に送りこむことができます。

03/11

お金をつぎこんでるんだしさ!」
「まあ、そうだけど……」
千秋はとうとう、うなずいた。
「仕方ないなぁ……
じゃあ、好きにすれば?」
「やった! ありがとっ!」
真帆はひとり、小躍りした。
その翌日、真帆はさっそく
クリニックにやってきた。
目的の施術である
鼻毛エクステンション──
通称「鼻エク」をするためだ。

02/11
悠木碧

悠木碧

千葉県出身の3月27日生まれ。声優としての活動は2003年頃からで、2008年『紅kure-nai』で初めてヒロインを演じる。以後『魔法少女まどか☆マギカ』鹿目まどか役、『戦姫絶唱シンフォギア』立花響役、『妖怪ウォッチ』天野なつめ役、『ポケットモンスターベストウイッシュ』アイリス役など、人気作品の主役キャラクターを多く演じる。2012年第六回声優アワードにて「主演女優賞」受賞。