※2023年8月31日~2023年10月27日に日経電子版広告特集にて掲載。
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Vol.3

「水なしでも飲める」技術が生んだ
“一石三鳥”の添加剤

ジェネリック医薬品のリーディングカンパニーである沢井製薬は独自の製剤技術を「SAWAI HARMOTECH®(サワイハーモテック)」と総称し、飲みやすく、扱いやすい薬の開発に注力している。「良薬は口に良し」が当たり前の未来を目指し、日々技術開発に挑む社員の姿を追うインタビューシリーズ。第3回はサワイハーモテックの発端となった添加剤の開発ストーリーをひも解く。

患者の不便を減らしたい 「いつでも飲める」をあらゆる薬に

患者の不便を減らしたい

「いつでも飲める」をあらゆる薬に

沢井製薬の製剤研究部内に「新技術検討チーム」が発足したのは2015年。それまでの製剤研究は個々の医薬品に最適化する形で進めていたが、共通する課題も多い。様々な薬に横断的に使える製剤技術が確立できれば、品質向上や研究の効率化に役立つのではないか――。現在のサワイハーモテックに連なる、沢井製薬独自の製剤技術開発が始まった。製剤Ⅰグループの主任研究員、伊豆井航さんを中心に9人の研究員が参加して意見を出し合うなか、最初のテーマに選ばれたのが、当時普及しはじめていたOD(口腔=こうくう=内崩壊)錠だった。

口の中で唾液に触れるとラムネ菓子のように溶けるOD錠は、水なしでも飲めるため場所を選ばずにいつでも服用でき、嚥下(えんげ)が困難な高齢者や子どもにも飲みやすい薬だ。2010年代ごろから普及が進み、沢井製薬でも扱うことが増えていた。OD錠は薬の有効成分に錠剤のベースとなる賦形(ふけい)剤、水分を含むと崩れる崩壊剤を混ぜて成形する。従来は有効成分ごとに、最適な賦形剤と崩壊剤の組み合わせを選んで調合していたが、特定の有効成分だけでなく、相性が合えば様々な薬にも使える添加剤として開発されたのがSARAMEL®(サラメル)だ。

サラメルの開発イメージ
サラメルの開発イメージ
梅村香織さん
製剤研究部
製剤Ⅱグループ
研究員
梅村 香織 さん

チームに参加した製剤研究部製剤第Ⅱグループの研究員、梅村香織さんは入社後、初めて担当したのがOD錠だった。さらに、次に手掛けたのは普通錠の先発薬を沢井製薬がジェネリック医薬品として発売するにあたってOD錠化するというもの。「患者さんがもっと飲みやすくなるようにというコンセプトでOD錠化する製品が増えていたので、その都度、添加剤を調合するのでは手間が膨大になっていた」と梅村さんは振り返る。

OD錠は少量の水分で崩壊するという性質から、空気中の湿度を吸収して膨らんだり、もろくなったりしやすい。そこでサラメルの開発では、崩壊性と同時に錠剤の強度や安定性を保つことを目指した。「それまでに開発したOD錠の経験から、候補となる賦形剤と崩壊剤の目星はつけていた」と伊豆井さん。だが、いいと思った組み合わせでも、実際に作ってみると崩壊性はよくても硬度が下がってしまったり、湿度に弱くなってしまったりと様々な問題が生じた。

伊豆井航さん
製剤研究部
製剤Ⅰグループ
主任研究員
伊豆井 航 さん

「いいところの相乗効果を狙っても、悪いところの相乗効果まで強く出てしまう。悪いところをどう抑えるかに苦労した」といい、最適な組み合わせに行きつくまでにおよそ1年かかった。だが、これでゴールではなかった。工場で生産するためのスケールアップがうまくいかなかったのだ。最適な製造法を確立するまでには、さらに2年近い年月が必要だった。

サラメルは流動層造粒という方法で製造する。粉末状の原料を空中に巻き上げて粉が流動する状態にしたところへ液体を噴霧し、粉同士を結合させることで粒状に固めていく方法だ。研究室の小型の装置では粒子ができていたのだが、工場で使う大型の装置では粒子にならず、「いったん粒状にまとまったように見えても、乾燥するともとの粉末に戻ってしまった」(伊豆井さん)。

一般的には、結合剤という粘着性のある成分を加えるのだが、OD錠では崩壊性を高めるために結合剤を用いなかったことが原因だった。液体を噴霧する量や速度、粉を巻き上げる風量、粉の温度といった条件を様々に変えて試行錯誤を繰り返すなか、ブレークスルーは意外なところにあった。

ブレークスルーは常識の外に

「普通に作ってできないのなら、考え方を変えてみよう」。試作に取り組んでいたある日、伊豆井さんは粉の温度を通常の温度から上げてみた。沢井製薬では流動層造粒は室温より少し高い程度の状態で行うのが常識で、それよりも高い温度では錠剤にするための理想的な粒子が作れないとされていた。噴霧する液体によって粉をぬらして付着させる仕組みなので、高い温度下ではすぐに水分が蒸発してしまって粉を付着させることができないからだ。ところが、高温で理想的な粒子ができた。「粉同士を一度にくっつけるのではなく、表面を少しぬらしては乾燥するという状態を繰り返すことで、少しずつ粒を大きくすることができた」と伊豆井さん。

流動層造粒機
工場で使う大型の流動層造粒機

サラメルの技術が完成した直後、担当する製品の開発に同技術を採用した梅村さんは「一番のメリットは開発がスムーズに進んだこと」と話す。サラメルを入れるだけで必要な錠剤の崩壊性や強度が実現できるうえ、有効成分を錠剤中に偏りなく配合できるという特長もある。OD錠だけでなく普通錠に使っても利点が多く、「生産時のトラブルも少ないので、製品開発に伴う諸課題が迅速に解決できる」(梅村さん)

研究イメージ
様々な薬のOD錠化に向けて研究を進める

強度が高いということは、薬を扱う調剤現場にもメリットだ。例えば調剤薬局では、患者の需要に応じて飲むタイミングごとに複数の薬をまとめて1袋にするサービスがあるが、従来の湿度に弱いOD錠はそれに向かないないものが多かった。包装から出しても強度が保たれれば、患者の利便性が高まるかもしれない。

「より飲みやすく、より扱いやすく」

水なしでも飲めるという患者の利点に加えて、サラメルには開発や製造の現場、そして調剤現場にもメリットがある。いわば、「一石三鳥」の技術で、サワイハーモテックの中で最も多くの製品に採用されている技術だ。ただ、サラメルを使っている製品はまだ多くなく、導入を広げる余地がある。梅村さんは「サラメルを使った医薬品を増やすことで、患者さんが薬を飲むという負担を少しでも減らしていきたい」と期待する。自身も2人の子どもに薬を飲ませるのに骨を折ることも多いが、「OD錠ならば子どもにも飲ませやすい」(梅村さん)。1日に何度も服用する必要がある薬や食間に飲む薬など、水を用意するのが難しいときにもOD錠は便利だ。

サラメル開発時におけるテストサンプルでの崩壊の様子
少量の水を滴下した後、器具で押して錠剤の崩れ具合を確認(サラメルを用いた製品によって崩れ具合が異なることがある)

サワイハーモテックは製薬の重要な工程である造粒(核粒子製造)、錠剤化(圧縮成形)、フィルムコーティングという各段階に技術があり、それぞれを掛け合わせて使うこともできる。「サワイハーモテックを活用した医薬品をどんどん世に出して、患者さんや医療従事者の不便を少しでも減らしたい」と話す伊豆井さん。「薬を、より飲みやすく、より扱いやすく、より親しみやすく。」を目指し、開発はこれからも続く。

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